Abinash
ワナムラの子どもたち
Abinash(アビナス)くん、7歳。
LKG(保育園の年長)クラスに通っている。
彼が住んでいるのは、ワナムラという村。
この村は学校のあるチャブダラから遠く離れた場所にある。
アビナスくんは、毎日ここから3時間半かけて学校に通っている。
通いはじめたのは彼が5歳のとき。
兄のリデシュが学校に通っているのを見て、勉強したいと言い出した。
母タラさんの心配をよそにアビナスくんの決意は固く、通い始める。
毎朝、6時半過ぎに兄のリデシュと姉のクシュミタと家を出る。
ワナムラの小さな子どもたちは、みんな道の途中で合流して一緒に学校へ向かう。
チャブダラとの標高差は約1000m。
アップダウンが激しく、崖のような所をよじ登って行く道もある。
子どもたちの軽い足取りについて行くのが必死な私は、「きつくないの?」と尋ねると、
全員から「きつくなーい!」と返ってくる。
もちろん疲れると思う。
でも、何よりも、学校が大好きな気持ちのほうが大きいらしい。
サビタと一緒にワナムラを訪ねたある日、
アビナスくんの家に行くと、学校へ行っているはずの彼がいた。
聞くと、熱が出てお休みをしているとのこと。
ベッドで横になっていた彼は、気がつくと机に向かって何か書いている。
「何してるの?」
とってもシャイな彼は、話しかけるとちょっとだけこちらを見て、すぐに目をそらしてしまう。
のぞいてみると、ノートにはぎっしり英語の文章が書かれていた。
サビタがスペルを見てあげて、間違いを教えてあげると、
下を向いていたアビナスくんはパッと嬉しそうな顔で色々と質問をしはじめた。
いつも聞こえないくらいの声しか出さない彼が、
大きな声で、楽しそうに、サビタとやりとりしている。
目を輝かせて。
「すごい!お勉強すると、熱も下がっちゃうんだね!」
笑いながらそう言うアビナスくん。
ー
後日、ワナムラの子どもたちに鳩時計を設置することにした。
もちろん、アビナスくんの家にも。
部屋に白い鳩時計を設置している時、
彼はまたいつものシャイな様子で、遠くから黙って見ていた。
「これは、アビナスを遠くで応援する人が、あなたを想った時に鳴くのよ。」
一瞬だけ目を大きくしてニヤッと笑った彼に伝わったのかどうか分からないまま、私たちはアビナスくんの家を後にした。
その夜、
アビナスくんの母の話では、彼は鳩時計のそばを離れず、ずっと鳩が鳴くのを待っていたとのこと。
ー
>>第5回「タナカ」