ネパールの神様
マダン・ライ
ネパールの滞在中、様々な人に出会う。
マダン・ライもその中の1人。
「ネパールで有名な農業の神様がいるから、会っておいでよ」 と言われて会ってみると、本当に神様みたいな人だった。
彼に初めて会ったのは、カトマンズの外れのレストランだった。
先に店に着いた私たちが席で待っていると、 遅れて入ってきたマダンさんに周りの人々が集まってきた。
彼は一人一人に丁寧に対応した後、ゆっくりと私たちの席に着いた。
「遅れてすみません」
まっすぐこちらに向けた眼差しは穏やかでありながら鋭く、私は少し緊張した。
「さて、私に何ができるかな?」
私たちの2つのプロジェクトを私の拙い英語で説明すると、 マダンさんは一言一言にしっかりと頷きながら、真剣に聞いている。
全てを話終わった時、 彼はまっすぐに顔をこちらに向けて、優しい眼差しで笑いながらギュッと手を握ってくれた。
マダンさんの手はガッチリしていて温かく、私は思わず涙がつーっと流れた。
神様からほめられたみたいで嬉しかったのと、
強い味方に出会ったみたいでホッとしたのと。
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その翌々週、彼は私たちのプロジェクトのために忙しい時間を割いてコタンに来て、地元の人たちに話 や上映会などを催してくれた。
そして、彼の学校に私たちを招待したいと申し出があった。
その学校はYouMe Nepalがあるところから車で4時間車ほど離れたディクティルという街にある。
私たちはその誘いを受けて、彼の学校を訪ねることにした。
更に激しく険しい道を進み、到着したのはすでに日が暮れかかっている頃だった。
到着した私たちに小さな子どもが数人駆け寄って来た。
子どもたちはマダンさんに同行していた青年の手を取ると、ワイワイはしゃぎながらどこかに引っ張っ て行く。
後を追うと、植物や動物を一つ一つ見せては自慢げに説明している。
このマダンさんの学校は、子どもたちや大人たちが一緒に様々な生きものを育てているらしい。
広い敷地には、授業を行う教室以外に、植物園、果樹園、いろんな畑、いろんな家畜、池、食品の加工 場、機械工房、洋裁室、食堂、そして子どもたちや先生たちの宿舎がある。
約50人以上の子どもたちがそこで生活を共にしながら「生きるために大切なこと」を学ぶ。
言葉だけでは正直ピンとこなかったけど、ここにいる人たちを見ていると、「なるほど」と思う。
到着時に駆け寄ってきた子どもたちは2~4歳くらいだったが、生き物を育てることを彼ら自身が楽し んでいるのが伝わってくる。
植物も動物も子どももみんな仲間で、笑顔しかない。 まるでディズニーの世界みたい!
小高い場所に立って、広い敷地全体を見渡す。
ゆっくりと空が暗くなっていく中、あちこちに見える灯に人がいる温かさを感じる。
薄暗い中で聞こえてくる、
子どもたちのはしゃぎまわる声、
動物の鳴き声、
風に揺れる木の音。
ぐるりと山々に囲まれたこの辺境の地には、 幸せな空気だけが流れている桃源郷のような学校があった。
今、ここにいることが不思議でたまらない、と思えるほどに。
「夢、じゃないよね?」
私もサビタも思わず呟いた。
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>>第5回「タナカ」