OQTA

変化のはじまり

 

小さな成功体験

 
悶々とした気持ちのまま、東京に帰る。
伝えられなかった言葉の代わりに、毎日タナカに音を送る。
「がんばれ」とか「応援してるよ」とか、
言葉は言葉の壁を越えられず、想いをそのままに伝えてはくれない。
ましてや、元々の言語が違う私たちにとっては、
むしろ言葉が誤解を生む可能性も高い。
単なる音のほうが、彼の気持ちにも私の気持ちにも寄り添ってくれるような気がする。
 
 
毎日の日課として、朝ボタンを押し続ける。
タナカが俯いた様子が頭に浮かぶと、胸がくうっとなるけど、
「がんばれ」と思いながらボタンを押すことで、
逆に私自身が少しだけ癒されていくような感覚になる。
そんなある日の夜
アサさんから着信があった。
日本語が話せないアサさんが電話をしてくるなんて、無論一度もなかった。
びっくりして電話に出ると、英語で私に何か伝えようとしている。

タナカが、試験をクラスで3番の成績でパスしたよ!

アサさんの言葉を理解した瞬間に涙が溢れてきて、言葉に詰まってしまった。
これまでの人生で何度か感じたことがあるこの感覚。
自分に嬉しいことが起きるよりも、
自分にとって大切な人が良い方向へ変わって行く様子は、
何倍も強い喜びを感じる。
誰かを変えたいと思っても、変えられるのはその人自身でしかないからか。
それとも、元々人間に「他者の喜びを願う」性質が備わっているからか。
 
はじめて出会って、そして音を送り始めて約6ヶ月目のできごと。
私にも、タナカにも、少しずつ変化が生まれ始めている。
 

>>第0回「OQTA ネパールプロジェクト」

>>第1回「新しい支援のカタチとは?」

>>第2回「雲の上の学校」

>>第3回「はじめての訪問1」

>>第4回「はじめての訪問2」

>>第5回「タナカ」

>>第6回「音を送るということ」

>>第7回「再びコタンへ」

>>第8回「タナカの夢」

>>第10回「ネパールの神様」

>>第11回「What is education?」

>>第12回「Abinash」

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